名勝智積院庭園保存修理事業 植栽及び護岸修理事業

智積院庭園は延宝2年(1674)に作庭されたものと思われ、作庭当時から東山第一と賞賛されていました。昭和20年(1945)には国の名勝に指定されています。

智積院に限らず、日本庭園は概ね自然素材を使ってつくられているため、年月の経過とともに劣化・き損することを免れ得ません。

名勝庭園である智積院での修復は、その名勝指定理由に基づき行われます。具体的に根拠となるのが寛政11年(1799)年に刊行された『都林泉名勝図絵」に描かれた江戸時代の様子です。現在はこちらの図絵に基づいた景観の復元を行っています。

『都林泉名勝図絵』(寛政11 , 1799.)

智積院では大きく分けて2種類の修復を行っています。

・護岸の修復

・修復剪定

以下に、それぞれの修復の取り組みをご紹介いたします。

護岸の修復

池の護岸石が崩落する等、修復が必要になったため、平成21年度から令和元年度にかけて修復工事を行いました。

名勝庭園は「現状を変更し,あるいはその保存に影響を及ぼす行為をしようとする場合,文化財保護法により,文化庁長官の許可を要する(文化庁)」という性質上、修復にあたって一度取り外した石も、元々あった姿に戻すことが原則となります。事前調査を行って石の積み方がまずいところや、そのほかの問題点を洗い出し、それぞれの個所にあわせて適切な補修方法を検討する必要があります。

また、調査によって明らかになる築山の構造や杭の役割などは作庭意図にも深く関係するため、調査確認と記録は非常に重要です。

護岸の石積みの修復工事(平成24年度~平成29年度)

事前に有識者・文化財保護技師と現場で議論を重ね、最適な工法を検討します。

池の護岸工事にあたって、まずは池の水抜きを行います

解体作業を行いながら石や周囲の状態を記録し、作業前の状態に復帰できるようにします

護岸際 作業前

護岸際 作業後

石ごとにナンバリングして写真を撮ります

石の配置だけでなく、現場の状況や作業の経過も記録に残します

いつの修復か、将来修復を行った際にわかるように、修復年発行の硬貨を入れ込みます

護岸修復完了後(2017年撮影)

修復剪定

裏山に生えている高木等、本来は庭の木ではないのに目立ちすぎたり、影ができる等、庭に対して良くない影響が出ていた樹木を切り戻し、庭園本来の景観に近づけるための修復剪定を行っています。

大きく育ちすぎた庭木については、江戸時代の書物や明治以降の古写真等、過去の記録を指標として本来、意図された庭園の姿に戻すべく剪定/刈込を行います。

『花洛林泉帖庭園之部』(明治42, 1909.)

シイの巨木

この木は裏山に生えている木ですが、大きく育ちすぎて庭園に影を落とす等、庭園の植物に対して悪影響が出ていました。

また、景観的にも修復目標である「都林泉名勝図会」には描かれておらず、本来の庭園の姿に戻すには不要であると考えられたため、伐採することになりました。

伐採前

伐採後

この写真のような巨木については伐採して骨格から作り直すか、骨格となる部分は残すようにするか、検討しながら伐採、剪定の仕方を検討します。

大きな木の伐採の場合、まずは足場を立てることから始めます安全のため、根元から伐採するのではなく上の方から少しずつ枝を切っていきます。

不要と判断された高木は伐採し、目立ちすぎるもの等は小さく切り戻し、剪定します。大きな重機を入れて作業をすることができないため、地面に降ろすことや、搬出作業のことも考慮して人間が持つことができる大きさで切り進めます。

サツキ大刈込

大きく茂り、かなり背の高い状態になっていたサツキの植え込み(大刈込)は段階的に剪定し、全体のバランスを整えながら補植や高さ・樹形の調整を行います。

修復剪定前の様子

大きく切り下げました

ある程度伸びてきたら、樹形を整えます

周囲とのバランスが良くなりました

このように、文化財庭園の保存修理事業においては、「その庭園がどうあるべきか」を検討しながら、現在の知識と技術でできる限りの修理、復旧を行っています。

その過程において現状を見極めて解読し、解読できないものについては受け継いだ状態で保存し、未来に委ねるための知識・経験をつなげて行くことが職人の仕事なのです。

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