特別対談 ブラウン氏×加藤友規「日本庭園は二十一世紀のクラシックランドスケープ」

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日本庭園は二十一世紀のクラシックランドスケープ

ブラウン かつて日本庭園は、異国趣味(エキゾチズム)、オリエンタリズムの対象でした。1889年のパリ万博に象徴される万国博覧会の時代、19世紀から20世紀初頭にかけて、日本が海外の博覧会場につくった「日本庭園」は多くの西洋人を魅了しました。漆器、浮世絵、日本画、陶磁器など、他の多くの日本の美術工芸がそうであったのと同じです。ジャポニスム(日本趣味)、シノワズリ(中国趣味)の時代でした。

加藤 日本にとっても西欧文化と出会う文明開化の時代でした。

ブラウン 戦後、姉妹都市の時代になり、アメリカでも各地でそれが踏襲されていきました。しかし、スタイル(様式)の確立がパターンの固定化に陥ってしまうと、本来の良さや自由な成長は見失われがちです。今この時代にあって、日本庭園は、より根源的な(ファンダメンタルな)価値が注目されるべきです。

加藤 なぜ日本庭園はこんなに人気があるのでしょう。日本庭園にはどんな価値があるのでしょうか。

ブラウン 人はある風景にストレスを感じ、ある風景には安らぎ(リラクゼーション)を感じます。雑踏や煩雑な都会の風景はストレスになります。では人が精神的に安らぎを感じるのはどんな風景でしょうか。それには6つの条件があります。一つめは広がりです。視界が妨げられない広さと手前の遮蔽物、奥行きです。二つめに、秩序が感じられること。三つめに、謎、見えない部分があること。四つめは明暗、光と影。五つめとして、自分が許容されていると思えること、入っていける安心感があります。最後の六つめは、青または緑の色と、水です。それはまさに庭、わけても日本庭園の風景なのです。

加藤 なるほど。

ブラウン 日本庭園の価値は、理想的に自然な環境であることです。西洋式庭園ももちろんすばらしいですが、やや人工的すぎるきらいがあります。あらゆる庭がすばらしい。しかし日本庭園は、中でももっとも優れた特徴を備えているのです。グロバール化が進むなか、フラット化と多様化の時代にあって、日本庭園の価値はますます高まっています。

加藤 興味深いですね。

ブラウン 音楽のジャンルで「クラシック」といえば、オーケストラに代表されるヨーロッパの伝統的な音楽芸術をさします。クラシックミュージックはユニバーサルミュージックであり、世界共通に愛され、好ましく親しまれてきました。日本庭園はそれに匹敵する根源的価値をもっています。私は、21世紀においては、日本庭園こそがデザインのクラシックになっていくべきものだし、なっていくだろうと考えています。

加藤 クラシックですか!

ブラウン はい。「classic」という言葉は、もともと「最上級」を意味するラテン語を語源としており、古典、規範、伝統のほか、最高水準、不朽、普遍などの意味をもちます。「クラシック」が音楽のクラシックになったように、日本庭園が庭園の、景観のクラシックになっていく将来を私は望んでいます。来るべきクラシックランドスケープです。いつか世界中の人が日本庭園を見て安らぎを覚えてくれたらと願ってやみません。

加藤 クラシックランドスケープ。すばらしい概念ですね。身の引き締まる思いです。私たち日本の庭師、京都の庭師も原点回帰をしつつ、「フォスタリング」の精神で研鑽を重ねていかねばと改めて思いました。今日はありがとうございした。

ブラウン ありがとうございました。

2015年1月16日 京都市左京区「南禅寺順正」にて採録
協力:南禅寺順正
photo:西川善康 text:福田容子

星のや 京都

星のや 京都「奥の庭」。鑑賞する伝統的な枯山水は歩ける多目的ラウンジとして誕生(2009年)。
伝統とモダンの融合が美しい

「暗黙知」の技の共有

南禅寺界隈の庭園にて、滝石組工事の作業風景。親方と弟子が言葉で説明できない「暗黙知」の技を共有しながら作業を進める。

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ケンダル・ブラウン氏

北米日本庭園協会(NAJGA)現会長
カリフォルニア大学ロングビーチ校アジア美術史教授

プロフィール

 カリフォルニア州バークレイ大学にて歴史、芸術史の学位・学士取得後、イェール大学で芸術史の博士号を取得。日本美術に関する書籍を出版するほか、北米における日本庭園研究の第一人者である。

 代表的な出版物は西海岸の日本式の庭(1999)、隔絶政治:日本の桃山時代の絵画と力(1997 年ハワイ大学出版)、川瀬巴水木版画全集(2003、ホテイ出版)など。

 近年は展示会の学芸員としてのプロジェクトもつとめ、川瀬巴水、日本博覧会、20 世紀前半の日本における西洋人女性アーティスト(エリザベス・キース、ヘレン・ハイド、バーサ・ラム、リリアン・ミラー)などの展示会に携わる。また、カリフォルニア州パシフィックアジア美術館にて、収集、展示、カリキュラムの学芸員として仕える。

 現在は次書籍“庭の未来像”に取り組み、古い日本庭園のデザイン原則論や哲学のみならず、伝統的な考えと発展的な考えを繋ぐものを探る。

 奥様のクニコ様は日本人。

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