庭をはぐくむ

「作庭四分、維持管理六分」とは、日本庭園の管理の重要さを示す言葉です。
日本庭園は、作庭工事を終えただけでは完成とはいえません。日々のお手入れを通してその真の価値が発揮され、適切なお手入れが行われなければ、その輝きはすぐに失われてしまいます。植彌加藤造園では、人間の一生よりも長く、時には数百年以上にわたってはぐくまれ続けてきた庭園への畏敬の念を込めて「作庭四分、育成管理六分」という表現を用います。
庭園ごとの本質的価値を顕在化させるお手入れこそが、植彌加藤造園の「育成管理」です。私たちは、庭園のお手入れを通じて、将来の世代へ日本庭園の価値を増幅して継承することを目指しています。

育成管理庭園一覧

-育成管理事例

植彌加藤造園は、庭園の育成管理に関する研究に取り組んでいます。
ここでは、名勝無鄰菴庭園の育成管理に関係する3つの研究成果の概要と、それらを活かした育成管理を紹介します。

「京都岡崎の文化的景観」をはぐくむ地域の活動
-伝統的庭園の植栽管理を事例に

著者:加藤友規
発表年月:2022年01月
発表媒体:ランドスケープ研究 vol.85 第4号

京都岡崎は、南禅寺を中心とした庭園群が存在する地域であり、その独自の景観が文化的価値として評価されています。しかし、これらの庭園や景観の維持には、個別の庭園内部に発揮する技術的な管理だけでなく、地域全体の協力が不可欠です。
本稿では、国の重要文化的景観である「京都岡崎の文化的景観」を維持・発展させる地域活動としての伝統的庭園の植栽管理を、地域住民で構成される自治組織「南禅寺地域の環境を守る会」による地域美化の取り組みや、對龍山荘の視点場からの借景を維持することを目的とした南禅寺参道の高木の剪定をはじめとする具体事例を通じて紹介します。
伝統的な庭園は地域の文化資産であり、地域景観は住民や企業、行政が一体となってはぐくむものという意識改革を通じて継承してゆくべきです。  

山縣有朋記念館所蔵の古写真に見る往時の無鄰菴庭園に関する研究

著者:加藤 友規、清水 一樹、阪上 富男
発表年月:2017年04月
発表媒体:ランドスケープ研究 vol.80 第5号

公益財団法人山縣有朋記念館が所有する写真帖『無鄰菴』に綴じられた9枚の写真のうち、6枚は山縣関連の諸資料や先行研究にて確認されたことのない写真でした。本研究では、この古写真を中心に往時の庭園の姿と現状を比較し、庭園の空間構成や利用形態の変化を考察しています。
植栽は年月に伴う変化がみられるものの、情景としては作庭時の意図が現在まで守られています。
また、撮影位置の特定が困難になるほどの変化は見られませんでしたが、園路については取捨選択、新設、拡幅があったものと見え、利用面での変化を反映していると考えられます。写真帖『無鄰菴』に綴じられた写真の撮影時期は不明ですが、集合写真に写る人物から、うち1枚は明治42年頃の撮影と思われます。
これらの分析を通じて、無鄰菴の歴史的価値やその変遷過程がより深く理解され、今後の庭園管理や保存活動における指針となることが期待されます。

名勝無鄰菴庭園の年間維持管理
-山縣有朋の感性を読み取った庭園管理のあり方-

著者:阪上富男、加藤友規
発表年月:2015年03月
発表媒体:ランドスケープ研究78(増刊)技術報告集8

公園や庭園の維持管理は、経費や作業時間の制約などから現状追認型の管理作業に終始してしまう傾向がみられます。しかし、無鄰菴の管理は2007年にプロポーザル方式を採用して以降、より歴史的な背景に基づく管理が行われています。
例えば、管理が行き届かず繁茂しすぎた外周樹木に対しては林床の照度を高めるため透かし剪定を施し、中低木を整えたうえで上部を切り下げることで、それまでは外周樹木に大半が隠れがちであった東山の借景を顕在化させました。また、野花を保護するための芝生管理、多様なコケ類の生育環境を考慮した丁寧な手入れも実践しています。
育成管理においては、庭園の本質的な価値を理解しつつ、現代の環境変化に対応することが重要です。

史跡・名勝として文化財に指定又は登録された歴史的な庭園の修復工事を行っています。
1000年にわたり受け継がれてきた庭師の技から、最先端の現代の技術を生かした施工方法まで、幅広く柔軟に提案し実現します。また、後世に残る確かな記録を行います。

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