庭園の育成管理、施工に携わる技術者としての視点から研究を行い、発表を行います。
研究成果を庭園管理や技術の発展、継承に活かすことを目的として、定期的な研究発表を学会などを通じて行っています。
尾山遺跡泉跡は、大阪府三島郡島本町桜井で発見された鎌倉時代後半頃の遺構である。この泉跡は、庭園遺構や儀式の場として機能していた可能性が高く、水無瀬離宮、または後鳥羽上皇に近しい皇族・貴族との関連も考えられている。本事業では、泉跡を桜井せせらぎ公園内に再現し、地域住民に歴史的価値を分かりやすく伝えることを目指した。工事では、保存石材や発掘土を活用し、3D点群データや記録写真等の既往資料を参考に当時の姿を再現した。また、植物遺体として検出した樹種であるケヤキを再現遺構の近くにシンボルツリーとして植栽した。これにより、再現遺構が地域のアイデンティティを形成していく場となり、文化財保護と地域振興の新たなモデルを提示した。
※現在、池泉跡は泉跡、移築復元は再現と表現が変えられているため、本要旨の表現は変更後のものを採用した。
名勝渉成園は都市部にくらす生き物達にとって貴重な生息地となっている可能性が示唆されている。本稿はその裏付けとして生き物と庭園管理の視点からチョウ類に着目し、渉成園の環境について評価するため、2020年8月から2023年7月にかけてチョウ類の調査を行った。3年間で確認したチョウは5科26種535個体であり、自生植物を活用し景色づくりを行っている場所では野花を餌植物とするモンシロチョウやキタキチョウを確認した。ゴマダラチョウやムラサキシジミ、イチモンジセセリは定着を確認した。渉成園内に存在する様々な環境は京都市内の点在する緑地として役割を果たしている可能性があると示唆された。
京都市下京区に所在する渉成園は真宗本廟(東本願寺)の飛地境内地であり,国の名勝に指定されている。これまで主に歴史的側面に沿って管理を実施してきたが,都市部の緑地である事から,レフュージア(Refugia・避難地)としての価値の側面に焦点を当て, 管理コンセプトをデザインしなおした。具体的には生き物の生息域の保護や枯死した樹木,枯れた下草を生かした景色作りを行っている。また、クロマツやモミジなどは本来の生息地の風景を再現しようと試みている。園内に生息する動植物のふるまい,仏教概念としての「生老病死」を真宗大谷派の教えである「響きあう命」の姿として見つめ庭園の景色の構成要素として位置づけている。より魅力ある庭園を未来に伝えるため、文化財を後世に伝える取り組みとして「不易流行」の実践を続けている。
京都市街の東側に位置する国有林(銀閣寺山、高台寺山等)からなる東山風景林では、大規模な土砂災害が起こる危険性があったため、2008年から林相改善事業による森造りがおこなわれてきた。しかし、これまで植栽された苗木の追跡調査は行われてこなかったため、本研究では、その一部である清水山の過去から現在までの変遷を文献を用いて検証し、林相改善事業の追跡調査結果と総合して清水山の将来像を予測した。 林相改善事業により植栽された苗木944本の生存率は85%とおおむね良好に生育しており、林層の多様化が確認された。 今後も景観的に美しく、防災面にも配慮した多様性のある複層林となることが予測されるが、それには持続的な森造りが求められる。
公益財団法人山縣有朋記念館が所有する写真帖『無鄰菴』に綴じられた9枚の写真のうち、6枚は山縣関連の諸資料や先行研究にて確認されたことのない写真であった。 本研究では、この古写真を中心に往時の庭園の姿と現状を比較し、庭園の空間構成や利用形態の変化を考察した。 植栽は年月に伴う変化がみられるものの、情景としては作庭時の意図が現在まで守られている。 また、撮影位置の特定が困難になるほどの変化は見られなかったが、園路については取捨選択、新設、拡幅があったものと見え、利用面での変化を反映していると考えられる。 写真帖『無鄰菴』に綴じられた写真の撮影時期は不明だが、集合写真に写る人物から、うち1枚は明治42年頃の撮影と思われる。 これらの分析を通じて、無鄰菴の歴史的価値やその変遷過程がより深く理解され、今後の庭園管理や保存活動における指針となることが期待される。
庭園の本質的価値を顕在化させるためには、歴史的背景を踏まえ、施主の作庭当時の構想を読み取り尊重したうえで、現在にふさわしい育成管理を行う必要がある。 無鄰菴の特色の一つは開放的な芝生空間であるが、古写真や文献では草丈のある芝生に野花の咲くさまが愛でられていたことが伺える。 しかし現代の感覚では、芝丈が伸び野草が生えた状態は管理が行き届いていないと見做される可能性がある。 そこで、芝生の定期的な刈り込みを廃止し、芝丈をエリアごとに調整することで、野趣あふれる自然な景観を現代にそぐう形で再現した。 また、芝生内の植物調査を通じて、野草を野花と雑草に分類し、それぞれに適した管理手法を策定した。
尾山遺跡泉跡は、大阪府三島郡島本町桜井で発見された鎌倉時代後半頃の遺構である。この泉跡は、庭園遺構や儀式の場として機能していた可能性が高く、水無瀬離宮、または後鳥羽上皇に近しい皇族・貴族との関連も考えられている。本事業では、泉跡を桜井せせらぎ公園内に再現し、地域住民に歴史的価値を分かりやすく伝えることを目指した。工事では、保存石材や発掘土を活用し、3D点群データや記録写真等の既往資料を参考に当時の姿を再現した。また、植物遺体として検出した樹種であるケヤキを再現遺構の近くにシンボルツリーとして植栽した。これにより、再現遺構が地域のアイデンティティを形成していく場となり、文化財保護と地域振興の新たなモデルを提示した。
※現在、池泉跡は泉跡、移築復元は再現と表現が変えられているため、本要旨の表現は変更後のものを採用した。
名勝渉成園は都市部にくらす生き物達にとって貴重な生息地となっている可能性が示唆されている。本稿はその裏付けとして生き物と庭園管理の視点からチョウ類に着目し、渉成園の環境について評価するため、2020年8月から2023年7月にかけてチョウ類の調査を行った。3年間で確認したチョウは5科26種535個体であり、自生植物を活用し景色づくりを行っている場所では野花を餌植物とするモンシロチョウやキタキチョウを確認した。ゴマダラチョウやムラサキシジミ、イチモンジセセリは定着を確認した。渉成園内に存在する様々な環境は京都市内の点在する緑地として役割を果たしている可能性があると示唆された。
京都市下京区に所在する渉成園は真宗本廟(東本願寺)の飛地境内地であり,国の名勝に指定されている。これまで主に歴史的側面に沿って管理を実施してきたが,都市部の緑地である事から,レフュージア(Refugia・避難地)としての価値の側面に焦点を当て, 管理コンセプトをデザインしなおした。具体的には生き物の生息域の保護や枯死した樹木,枯れた下草を生かした景色作りを行っている。また、クロマツやモミジなどは本来の生息地の風景を再現しようと試みている。園内に生息する動植物のふるまい,仏教概念としての「生老病死」を真宗大谷派の教えである「響きあう命」の姿として見つめ庭園の景色の構成要素として位置づけている。より魅力ある庭園を未来に伝えるため、文化財を後世に伝える取り組みとして「不易流行」の実践を続けている。
真宗本廟(東本願寺)の飛地境内地である渉成園において、2018年に『京都府レッドデータブック2015』の絶滅寸前種に指定されているミズアオイが確認された。2005年から実に13年ぶりの開花確認となり、その理由としては2014年から行われている保存修理事業によって印月池の浚渫が行われたことにより眠っていた埋土種子が目覚め、開花に至ったと推測される。渉成園入口での展示の他、個体数・遺伝子多様性を維持するため、弊社他各連携場所で生息域外保全を行った。今後は自生地で再度育成していきたいと期待している。
純粋な日本庭園をつくる機会が減る中、別荘やホテル、商業施設などで日本庭園の要素をいかした空間づくりの機会は増してきている。今回、京都の玄関といえる、京都駅と連続した商業空間にて、日本庭園をイメージした空間づくりの御依頼をいただき、計画・設計・床面の石工事に携わらせて頂いた。その「こころと技」について報告する。
公園や庭園の維持管理は、経費や作業時間の制約などから現状追認型の管理作業に終始してしまう傾向がみられる。 しかし、無鄰菴の管理は2007年にプロポーザル方式を採用して以降、より歴史的な背景に基づく管理が行われている。 これには、東山の借景を際立たせるための修復剪定や、野花を保護するための芝生管理、多様なコケ類の生育環境を考慮した丁寧な手入れが含まれる。 育成管理においては、庭園の本質的な価値を理解しつつ、現代の環境変化に対応することが重要である。