特別対談 ブルーム氏×加藤友規×山口隆史「エンゲージメントがつくる人と庭の幸せな関係」

「体験」が庭を特別な存在にする

ブルーム 庭はただ存在するだけでは、本当の意味で「庭」になることはできません。そこには、ただ植物と水と石があるだけです。人がそこに来て庭を経験することによって初めて、庭はその人にとって特別なもの、かけがえのない存在になるのです。そこで何かをする。自分とのつながりをつくるということですね。私たちは庭を通して、経験を共有するひとつのファミリー(仲間、一族、身内)をつくろうとしているのです。加藤さんも「けいはんな記念公園」を筆頭に、同じようなことに取り組もうとしていますね。それはすばらしいことだと思います。

加藤 私たち植彌加藤造園株式会社がけいはんな記念公園の指定管理者になって、今年で10年になります。この間、所長の山口を中心に、「地域に愛される日本庭園」をめざして、現在のようなサポーターや行事のあり方を、10年かけて育ててきました。

山口 平成18年にこの公園の管理を始めたとき、私たちは2つの方針を決めました。ひとつは、普通の庶民、つまり市民だれもが、自由に自分なりのスタイルで日本庭園を楽しんでもらっていい、というスタンスを明確に打ち出すことです。赤ちゃん連れでも、ベビーカーでも車いすでも、どんどん来ていただきたい。小さいお子さんが元気に遊ぶのもいいし、お弁当を広げてもいい。自由な過ごしかたで、日本庭園の魅力を感じてもらいたいと考えました。もうひとつが、それをどんどん言っていくこと、広報することです。これをもっとも大事にし、実践してきました。

ブルーム それは大切なことです。公園のパブリックマネジメントで重要なのが、庭のビジョンをもつことはもちろん、多様な人がそこにどう関わることができるのか、フィーリングを伝えていくことですから。そこに自分の「居場所がある」という感覚をもってもらうことが大事ですね。

山口 歴史的にみて、日本庭園は富裕層がプライベートに楽しんできた時代が長かったのです。戦後、ようやくパブリックな日本庭園が増え、庶民が楽しめる環境ができてきました。ですが、それまで知らなかった世界ですので、どう楽しんでいいかが難しい。また、剪定技術はあっても、市民社会と庭をつなぐモデルが日本社会にはありません。運営側からしても、パブリックな庭をどう育てていくかは課題でした。ブルームさんと出会い、ポートランド日本庭園に学んだことは大きいです。また新たな道が開けたというか、素晴らしい刺激をいただきました。

ブルーム けいはんな記念公園は、日本における日本庭園運営の良いモデルになれるだろうと期待しています。

山口 昨年は一年間に190回のプログラムを実施しました。まだまだ課題はありますが、おかげさまで、当初3万人ほどだった水景園(有料ゾーン)利用者が、今では8万人の水準になっています。けいはんな記念公園全体では、この9年で約20万人から60万人にのびています。

加藤 ボランティアのしくみも、ぜひ勉強させていただきことのひとつです。ポートランド日本庭園には、ボランティア・コーディネーターさんがいて、ボランティアシステムが日本庭園のマネジメントのなかですばらしく機能しているのですね。けいはんな記念公園でもボランティアさんと協働していますが、あのシステムには及びません。

山口 当園もボランティアさんの厚い層に支えてもらっている面は大きいのです。現在、登録80名、コアメンバー20〜30名ほどでしょうか。森の手入れもしてくださっていて、その人たちがいないと維持できないくらい大きな貢献です。ですが、ボランティア・コーディネートのシステム化や有効な運営はなかなか難しいというのが実感です。

ブルーム アメリカでは、キリスト教の奉仕の精神がベースにあるため、社会的に成功した人は、得たもの、儲けたものを社会に還元する文化があります。リターンできてこそ一人前という価値観が社会基盤になっているのです。日本人ももともと深い思いやりをもっているので、公に資する精神性もなくはないでしょう。ただ、現代の日本の価値観は、経済性、効率性、我利に偏りすぎているようにも思えます。ノーブレス・オブリージュ(高い身分に伴う義務)*3は、自分も周囲も、その社会が共通してもつ価値観にならなければ根づきません。

山口 日本では、京都をはじめ、むしろ市井の庶民に「おかげさま」と「おたがいさま」で支え合う地域の関係性が生きていることが多いかもしれません。私の祖母も地域の清掃やお手伝いを黙々とする人でした。そういった奥ゆかしさゆえか、当園でも早朝に黙ってゴミを全部ひろっていかれる「名乗らぬボランティア」がおられたりもします。

加藤 宗教や文化の違いがあるとはいえ、利他の精神は、日本の価値観にも文化にも、本来、深く根づいていたものだと思います。庭園のファンになってくれている人が「応援したい。支援したい」と思う体制づくりをしていくことが大切ですね。

ブルーム そうですね。人は贈り物を受け取ると、また次に贈ろうとするものです。21世紀の贈与と互酬性の文化を育てるには、まず自分から一歩を踏み出し、よき手本を示すことが必要なのでしょう。

日本の気候と似たポートランド日本庭園には、苔が育つ環境がある。
しだれモミジの幹は苔で覆われ、風情を醸しだす。撮影 Michel Hersen

けいはんな記念公園の水景園の田んぼにて、親子で参加可能な「つちのこ隊」。一年を通して、田植えや野菜の収穫、もちつきなどの農業体験ができる。

*3ノーブレス‐オブリージュ

【フランス語 noblesse oblige】

身分の高い者はそれに応じて果たさねばならぬ社会的責任と義務があるという、欧米社会における基本的な道徳観。もとはフランスのことわざで「貴族たるもの、身分にふさわしい振る舞いをしなければならぬ」の意。「ノブレスオブリージュ」ともいう。

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