特別対談 ブルーム氏×加藤友規×山口隆史「エンゲージメントがつくる人と庭の幸せな関係」

日本庭園は土地の原風景にしたがう

加藤 ブルームさんが感じる日本庭園の魅力と可能性について聞かせてください。

ブルーム 日本庭園の構成要素は、どこも大きくは変わりません。木と石と土と水からできている。にもかかわらず、一つひとつがユニークです。その庭園ならではの特徴、他の日本庭園にはない点を探しながら見る。くらべて批判する否定的な見方ではなく、それぞれの魅力を発見しようという見方をすることで、より豊かに日本庭園を楽しむことができます。

山口 日本庭園は、その土地の風土に即し、原風景を取り入れることをめざしますから。そこに生まれる「らしさ」がありますね。

加藤 ポートランド日本庭園に初めて行ったときは驚きました。樹高70〜80メートルもある巨大な樹木が周囲を囲っているのですから。話には聞き、写真も拝見していましたが、やはりその場に身を置くと圧倒されました。

ブルーム ポートランドは地形がダイナミックで起伏があり、木の種類も日本とちがいます。そうした雄大な風景のなかに、日本的な風景もある。特殊な地形を生かしたところが、ポートランド日本庭園らしさ、ユニークな魅力になっていると思います。

山口 日本庭園のベースにあるのは、人と自然のハーモニーをどうデザインするかという思想です。それは海外でも変わらないのですね。

ブルーム 加えて、日本庭園はすばらしい教育の場だと思います。私もはじめはただ美しさに感動するばかりでした。ですが、知るほどに庭の教育力の高さに気づいていきました。庭はあらゆることにつながっています。庭師をはじめ職人の技術はもちろん、日本文化、建築から、美術・工芸、食まで、すべて。また、自然、環境問題、科学にも関連します。地域やボランティア精神、ノーブレス・オブリージュ、人どうしの関係性やコミュニティーオーガナイジングなどなど、いろんなことを、庭を通して学ぶことができます。

加藤 それらすべてがポートランド日本庭園の企画やプログラムにも、運営のメソッドにもなっていったわけですね。

ブルーム そこまで多様な教育の場になるものが他にあるでしょうか。私は思いつきません。

山口 おっしゃるとおりですね。庭は多様なメッセージを受け止め、発信することができます。当園のプログラム展開も心は同じです。

ブルーム じつはポートランドは、さほど多様性のある都市ではありません。ダイバーシティ(多様性)教育は重要です。体験を通して異文化に触れ、学ぶことのできる日本庭園は、ダイバーシティ教育の基盤としても貴重です。

加藤 そうしたときに、やはり「よきハード」の力は偉大ですね。まず50年前にポートランド日本庭園を設計された戸野琢磨先生のデザインがすばらしかった。その後、現在まで続くディレクターシステムがそれを維持し、高めてこられた。こうした得難いハードが有形・無形の資産となって、多様な活用、展開を可能にしているのでしょうね。

山口 良質なプログラムやイベントは、よきハードあってこそ。私たちは、庭園の管理運営には、4つの柱があると考えています。

①よきハード → ②よきソフト → ③よき広報 → ④よき関係

当園も、最初によきハードがあったからこそ、そこによきソフトを重ねることで、成長してこられたのだろうと思います。今後も、どういう地域の学びの場になっていけるか、より愛される庭園になるために、地域の人が求めていることを探していくことが課題です。

ブルーム ポートランドとけいはんなが、日本とアメリカをそれぞれ代表する2つのモデルとなり、世界が私たちをどう見るか、どう見られているかを考えていくのは今後のやりがいあるチャレンジだと思います。

加藤 今回の調印は、広く京都の、また日本の日本庭園につなげていけることだと思っていますし、ポートランド日本庭園の功績が世界の成功例として、よりよく伝わっていくことを願っています。

ブルーム 今後、チャレンジしたいことが2つあります。ひとつは、美意識を育むことです。私たちはネイティブの日本人職人が生まれ持っている美意識や日本的感覚をもつことはできません。技術は学んで身につけられても、生来の日本的美意識はもてない。それを前提として、では、そうした美意識を私たち外国人がどうやって学んでいくか。つまり、心をどう育んでいくかということです。春に完成する新施設「インターナショナル・インスティテュート」は、技術だけでなく、日本の文化や美意識も学べる、日本の心(精神性)を伝えられるものにしたいと考えています。

加藤 それは楽しみです。ふたつめはなんですか?

ブルーム 技術教育のプログラム化です。現在、私たち外国人が日本庭園の技術を学ぼうと思ったら、日本語を学び、日本に来て、10年あるいはそれ以上の時間とお金が必要です。それはハードルが高い。日本の庭師が10年かけて学ぶことを、2年で学ぶプログラムにできれば、ポートランドだけでなく、北米300の日本庭園すべてに広めていくことが可能です。そうすれば、よりよい日本庭園を育んでいけるのではと思うのです。日本の庭師の技術を、いかに教育プログラム化できるか。目標は、「英語で、2年以内で、アメリカ国内で」です。

加藤 それが実現したらすばらしいことです。私たちでできることがあれば、お手伝いさせてください。

ブルーム ありがとうございます。私たちが皆さんから学んで、それをアメリカや世界の日本庭園従事者にも届けていきたい。新しく完成する「インターナショナル・インスティテュート」では、そうした技術発信もしていきたいと考えています。

加藤 逆にネイティブでないからこそわかることもあると思います。異文化の目で発見されることが我々には貴重な学びになります。

ブルーム 海外の日本庭園は、日本を母体として生まれた子どものようなもの。子どもは親とは違う視点からものを見ています。無垢な子どもだからこその気づきを、新しい見方として返していけるのではないでしょうか。

加藤 ええ、そのとおりだと思います。

山口 さまざまな面で皆さんに学びたいことも多々あります。今後もいい交流を重ねて、お互いの知見を深めていければ幸いです。

加藤 お互いの持ち味を生かして、学びあえる関係を育んでいきましょう。本日はありがとうございました。

2015年10月16日 けいはんな記念公園にて採録
photo:西川善康 text:福田容子

ポートランド日本庭園の園路。太平洋岸北西部で育った巨木が、
日本庭園のデザインに溶け込み、訪れる人々を魅了する。
撮影 Jonathan Ley

スティーブン・D・ブルーム氏

ポートランド日本庭園CED

プロフィール

 多様かつ複雑な非営利組織の経営・管理を専門、得意とする。1996~2000年、27歳にしてタコマ・シンフォニーの事務局長を務め経営管理者としての手腕を発揮。2000~05年、ホノルル・シンフォニー会長。同職在任中に2003年スタンフォード大学のソーシャル・イノベーション・フェローシップを受け、同大大学院ビジネス・エグゼクティブ・プログラムにて非営利組織経営を研究。2005年より現職。

 米日カウンシル(ワシントンDC)フレンド会員、ワシントン州アーツ・アライアンス会長、ワシントン・パーク・アライアンス理事長、北米日本庭園協会 発起人・初代理事長等を歴任。2013年、観光事業に関するオレゴン州知事会議にて、2013オレゴン・ヘリテージ・ツアリズム賞受賞。

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