日本庭園は時代とともに移り変わり、その時代に合った新しい様式が生まれてきました。
池泉回遊式と呼ばれる庭園様式は江戸時代に現れたもので、それまでの様々な庭園様式を集大成したものとみなすことができます。
回遊式という表現からわかる通り、庭園内を歩いて巡ることを前提とした構成とデザインを持つ庭園であり、特に一定の教養や共通認識を持つ上流階級の人々の間で、茶事や宴を催す社交の場として成立しました。京都における代表的な池泉回遊式庭園としては桂離宮庭園や修学院離宮庭園などが挙げられ、兼六園や岡山後楽園、偕楽園といった大名庭園もこの様式です。
この様式の庭園は、徒歩での散策や船遊びを想定して随所に築山や平場、御殿や茶亭といった建物が設けられており、歩を進めるにつれて景色が変化するように設計されています。広大な庭園は単なる慰楽の空間として存在したわけではなく、社交の場として茶事や能などの芸能が催されました。
池泉回遊式庭園の構成要素には和漢の文学や歴史に因んだ場面や景色が表現されており、それぞれの意味を理解し、楽しむには高い教養が求められました。例えば、桂離宮の庭園では天橋立を縮景で表現していたり、庭園の利用方法においても池に浮かべた船上で和歌を詠み、管弦をかなで、酒宴を設けるといった『源氏物語』などで描かれる平安時代の王朝文化への憧れがみられます。
日本文化の爛熟期である江戸時代に盛んに造営された池泉回遊式庭園には、景観上の美しさだけではなく精神面でも日本文化の粋が反映されているのです。