植彌加藤造園は、京都御苑 間之町口雨庭の設計と、植栽や石材の選出や配置などの庭園的な表現のアドバイスをいたしました。雨庭とは、雨水が浸透しない都市空間に降った雨水を集め、一時的に貯留し、地中にゆっくりと浸透させる機能を持ち、洪水被害などを未然に防ぐ役割を持ったグリーンインフラです。
間之町口は、京都御苑が形作られた古くから多くの京都の人々に利用されてきた一般道と御苑をつなぐ南西の出入口であり、交通量の多い場所です。この場所には3つの課題がありました。
第一に、雨水がたまりやすい地形のため、たびたび水害に見舞われてきました。第二に、生い茂る植栽が目隠しとなり、放置自転車が多発していました。第三に、様々な方が利用する場所ながら、砂利敷きでバリアフリー対応ができていない区画でした。
これらを総合的に解決しつつ、新たな景色としての魅力を御苑に添える雨庭の造営計画が、京都大学名誉教授の森本幸裕先生により御苑を管轄する環境省に提案され、採択されました。環境省が管轄する国民公園においては初の雨庭の導入であり、先駆的な事例となりました。
雨水の一時的な貯留と、土中への浸透を促すために、中央の雨庭部分には砂利敷きをほどこし、地下に設けられた枝管を通って周辺の植栽帯にも還元される仕組みとなっています。苑路は、雨水が浸透しやすい舗装材を使用し、同時にバリアフリー化も実現しました。
また、土中に埋蔵されている遺構を保護するために、施工時に地面を深く掘りこむ必要がないよう、DOパイプを束ねて周辺植栽帯に速やかに雨水を分散する地中排水路を多く設けるようにとの森本幸裕京都大学名誉教授による指導を実現した先駆的な設計になります。
植栽においては、フジバカマ(藤袴)、ヒオウギ(檜扇)、フタバアオイ(双葉葵)、ムラサキシキブ(紫式部)といった京都地域の在来種を多く用い、一年を通じて開花が楽しめ、かつ生物多様性に直接触れられる新しい環境教育の場が誕生しました。
石材においても、京都産の石材を多く取り入れることで輸送による二酸化炭素排出量を削減しつつ、あられこぼしや景石として、それぞれの風合いにあった配置をしました。また、御簾垣や光悦寺垣といった京都の造園には欠かせないアイコニックな竹垣を設置したり、劣化が進んでいた既存の木製ベンチを石材ベンチに交換したりと、御苑という場にふさわしい庭園表現をほどこし、風通しが良く華やかな、誰もが憩える空間としました。
さらには、当エリアの管理を手がける方々に向けた「管理計画書」を作成し、長きにわたって最適な空間が育成管理されていくことを重要視した点も、特徴的であったと言えるでしょう。一般の方々に対しても、イラスト付きの広報資料を作成し、新しくなった当エリアの魅力をはじめ、雨庭やグリーンインフラ、地域性種苗などに関する基礎的な情報を提供しています。
雨庭は、大きなものを一箇所に造営するよりも、小さなものをたくさん造ることで野鳥や植物にとって都市の中でも生きやすい環境を作ることができます。また、多様な主体により同様の連携・活動を進めていくことが、さらに充実したエコロジカルネットワークの形成に繋がっていきます。植彌加藤造園は、これまでに培った伝統的な庭園技法を駆使して、都市環境の改善に尽力して参ります。
所在地 / 京都御苑間之町口
設計/ 環境省京都御苑管理事務所・植彌加藤造園株式会社
設計監修/ 森本幸裕
施工 / 株式会社 茨木春草園
造営年 / 2021年
対象 / 3,071㎡