福寿園は寛政2年(1790)の創業。お茶を売るだけではなく、宇治茶の文化の継承と創造をめざし、体験施設である宇治茶工房や研究施設も含めたCHA遊学パークなども備えた、茶の総合商社ともいうべき存在で、その福寿園が、深みのある京物、そして、贅沢で品格のある憧れの世界を創成するために、創設されたのがこの福寿園京都本店です。
福寿園京都本店は、王朝文化に彩られ、心の奥深くに息づき醸成されてきた宇治茶文化の真髄を、時空を超えた創造的な「庭園建築」として、新たな装いで蘇らせようという「天空の庭」構想を立ち上げ、市街地にありながら、建物内ではどこにいても自然を感じつつ、お茶を楽しめる、「市中の山居」に息づく茶の心で建物全体を庭園化することをコンセプトとして作庭されています。こうした構想の策定から設計、施工にいたるまでは、文化財庭園に関する研究の第一人者として著名な、京都造形芸術大学教授の尼崎博正氏に一貫して監修・指導をいただきました。
伝統的に日本庭園では、石や築山、樹木を各地の名所や名山などに見立てて作庭を行う、「見立て」という手法を用いてきました。ここ福寿園京都本店でも、「見立て」の手法を利用し、庭園のイメージを喚起するものとして、伝統的な庭園の意匠で設計がなされています。
こうして竣工した地下1階から地上9階の空間には、伝統的な茶室とともに立礼の茶室が備えられ、床の紋様も市松模様や雲の模様などフロアごとに異なり、さらにはトイレも露地の蹲踞をほうふつさせる様々な意匠が施されており、室内を眺めているだけでも楽しめます。さらに、各フロアに設けられた中庭では、静寂のイメージ、侘びのイメージ、茶畑の原風景のイメージなど、テーマごとにまとめられ、茶に関わる様々なイメージが贅沢に、しかも簡素に盛り込まれております。
洛中はもちろんのこと、栂尾から山城までを舞台としつつ、連綿と世界に通ずる宇治茶文化を育んできた京都の自然と歴史文化が凝縮されているのが、福寿園京都本店の「庭園建築」です。