南禅寺にほど近い場所に位置するM邸の庭は、この敷地を別邸として利用するため、家の新築とあわせて作られた庭です。
敷地に立つ主屋は、南禅寺にほど近いこともあり、伝統的な数寄屋風の建築となっているため、庭についても、主屋と同様、伝統的な日本庭園の作りとなっており、大きく、アプローチ部分の庭と居間と食堂に面した池庭、敷地の北側にある奧の小庭の3つにわかれています。
まず、門を入って玄関へ向うアプローチ部分の切石の園路の右側には、石樋から流れ落ちた水が流れを伝って手水鉢まで流れています。ここ南禅寺界隈には、琵琶湖疏水を水源に使っている庭園が多くありますが、この流れの水も琵琶湖疏水を水源としており、手水鉢の下から地下を通って、園路をはさんで反対側にある池庭へと流れていきます。
そして、主庭である、居間と食堂から眺めることのできる池庭があります。南北に細長い敷地いっぱいに広がるように池が作られ、南側には大きな滝石組が据えられています。池には石橋が架けられ、沢飛びが据えられているだけでなく、池の南東側の石の井筒からは水が湧き出すなど、近代に入ってから南禅寺界隈に多く作られた、伝統的な技法を用いながらも開放的な雰囲気のある庭園を髣髴とさせるような作りとなっています。
また、敷地奥の小庭は、茶室にも用いられる広間への待合と手水の背景ともなっており、穂垣の前の梅の古木が目を引きます。
各所で用いられている石も貴船石や鞍馬石などの賀茂七石といわれる名石を用い、園内には、サクラやモミジ、アカマツといった、かつて松林であった東山の風景を意識した樹木を植えて、伝統的な技法をふんだんに持ち込んだM邸の庭園では、春先や新緑、紅葉など、季節ごとに変っていく風景を楽しむことができます。