古都平安の宿 奏

「古都平安の宿 奏」は,2017年に京都市左京区の岡崎地域に開業した宿泊施設です。当地は平安時代後期から「六勝寺」が置かれ,白河天皇に続く院政の中枢部として大いに栄えた地域です。近代では南禅寺界隈別荘庭園群の作庭で名高い七代目小川治兵衛の活動の中心地に位置しており,明治以来の景観保全地区でもあります。こういった歴史的経緯をふまえて,「岡崎の地」をコンセプトの中心とした庭園を作庭しました。

「古都平安の宿 奏」の庭園には,施設北側のエントランス,南側の主庭と,西側に位置する禅の庭の3つがあります。
お客様を出迎えるエントランスでは岡崎地域の歴史,土地,景色との調和に重きを置き,平安時代にあったとされる九重塔をイメージした石塔や近代の別荘庭園群で好まれた木賊(とくさ)塀,現在では入手困難となった周囲に小ぶりの自然石を敷き詰めた大判の沓脱石(くつぬぎいし)などを設えた石敷のアプローチ及び前庭となっています。

客室のプライベートガーデンとなる枯山水の禅の庭では,景石や手水鉢,南禅寺垣によって「歴史の中の禅」を表現しました。
建物南側の主庭では,「普段着で特別な時間を過ごせる庭」をテーマとし,枯滝と砂利の流れを配して東方(東山)の山の景から西方の人里の景へ移り変わる景色を表現しています。岡崎界隈の別荘庭園では東山を借景とすることがほとんどであったことから,庭園西側に東山を展望する展望台を設けました。景に東山との繋がりを持たせるため,かつて東山の主な樹木であったアカマツをはじめミツバツツジやソヨゴなど,東山に自生する樹種を植栽しています。

南東に位置する枯滝についても東山との繋がりを持たせることを意図し,「東山から流れだす」ものとして作庭しました。東側の山の景に対して、西側には柿の木やクチナシ,サザンカやキリシマツツジといった人里の果樹や花木が植栽されています。また,七代目小川治兵衛が琵琶湖疏水によって滋賀から運んだ「守山(もりやま)石」を庭園西側に据え,その独特の縞模様をアクセントにしました。南側に隣接した庭園の樹木を景に取り入れる等,周辺環境との調和を意識しつつ,中央に配した枯滝からの枯流れをメインにした夜間ライティングを設置するなど,鑑賞だけでなくパーティー等での活用も想定した庭園となっています。

所在地: 
京都府京都市
公開状況:
公開(施設利用者対象)
作庭時期:
2017~2018年

ランドスケープ研究 VOL.83 増刊 ランドスケープ作品選集 2020 No.15 (PDF)

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