名勝円⼭公園庭園修復⼯事

国指定名勝円⼭公園は、京都市東⼭区の祇園にほど近い⼩⾼い丘の上にあります。明治19年(1886)に造営された京都市で最も古い公園で、昭和6年(1931)に国の名勝に指定されました。広さは東京ドーム約2個分あり、明治4年に発布された上知令によって神社仏閣から接収した⼟地に造営されました。全体の空間構成は建築家である武⽥五⼀が設計し、⼤正3年(1914)には七代⽬⼩川治兵衛の⼿になる庭園が新たに造営されました。このような歴史的背景をもち、現代にも⾼い⽂化的価値を継承している公園です。

修理工事完了後の円山公園の流れの様子1 修理工事完了後の円山公園の流れの様子2

修理工事完了後の円山公園の流れの様子

本工事は、平成28年に策定された「名勝円山公園保存管理計画」に基づいて平成29年(2017)から令和2年(2020)にかけて実施されました。そのうち、植彌加藤造園は平成29年度から令和2年度にかけて従事しました。「名勝円山公園保存管理計画」は国指定名勝円山公園の魅力を十分に活用し、より一層質の高い保存管理と再整備(修復)を行うことで、多くの市民の方をはじめとする来訪者が集い、自然と文化に触れる憩いの場になることを目指すものです。工事の対象となった区域は文化的価値の高い庭園の園池部分で、流れ底および滝、護岸のき損箇所等です。工事の 諮問機関として京都市名勝円山公園再整備検討会が設置され、文化庁、京都府文化財保護課、京都市建設局みどり政策推進室、同市文化財保護課などの関係機関の協力や指導を受け、植彌加藤造園が施工者となって工事を行いました。

まず、工事に先立って、対象範囲の構造を把握する目的で考古学的調査(発掘調査)を実施しました。発掘調査は園池全域の護岸・流れ底・護岸際の植栽帯を対象に行い、区画ごとの現状の問題点および庭園のき損状況をまとめました。加えて事前調査とは別に、流れ底の高さ測量、トレンチ調査、セクション調査も行い、十分な検討を重ねました。

現状把握のための調査記録写真より 現状把握のための調査記録写真1

現状把握のための調査記録写真より

文化財に指定された庭園では、過去に繰り返し修復や修理が行われていることが少なくありません。これまでに文化庁に申請された変更について今回改めて調査したところ、円山公園では昭和37年(1962)に園池の修理、昭和58年(1983)に園池等の整備、昭和53年(1978)・55年(1980)・平成16年(2004)に園路整備が行われていることがわかりました。しかし、いずれもどのような修理が行われたのか記録は残っておらず、過去に修理工事を行った際の状況や工事内容の把握は難しく、修理が行われた事実の確認のみにとどまりました。

様々な調査の結果、工事対象範囲である園池のうち流れは、護岸と流れ底の特徴に応じて6つの区画に分けられました。そして全域のなかでも特にき損が著しかった流れ底5区画に対して、優先的に工事を行う方針が決定されました。

現状把握のための調査記録写真より

園池の流れ区画
出典:京都市建設局みどり政策推進室「名勝円山公園庭園保存修理事業報告書」
令和元年(2019)

流れ底の修理

本コラムでは今回行われた様々な修理の中から、工事の特徴が最もよく表れている流れ底の修理について詳しくお伝えします。流れ底の修理は、大きく分けて「①堆積土除去、流れ底洗浄」「②修理箇所の明示、記録」「③流れ底修理」のプロセスで行われました。

① 堆積土除去、流れ底洗浄

園池の流れ底には、手のひら大の玉石が敷き詰められている部分と、もともとの土地の地盤、及び地山層の上面に人為的に砂利がたたき締められた地盤が混在しています。調査開始前に、これらを覆う形で堆積していた土に生えた不要な樹木や雑草を除去しました。植物は根から除去しましたが、根が本来の流れ底の玉石にまで達しているものもありました。不用意に取り除くと石の配置を崩してしまう可能性があったため、作業は慎重に行いました。

堆積土除去の様子 堆積土除去の様子

堆積土除去の様子

流れ底が石敷きの部分については堆積土を除去した後、水で洗浄しました。搬出した堆積土は、仮置き場にて高さ30cmを限度にコンパネ上に積み上げ、専用の排水設備を設け排水を行いました。

流れ底洗浄の様子

流れ底洗浄の様子

② 修理箇所の明示、記録

本工事の中で最も特徴的なプロセスです。洗浄が完了した流れ底の上に1㎡の正方形の木枠をあてて区切ったエリアを明示し、き損の程度に応じて各エリアを3種類に分類しました。
玉石がモルタルでしっかり固定されていて、なおかつ、一定の面積にこのような玉石が揃っており修理の必要がないと見込まれるエリアをAとしました。玉石が外れモルタルのみが残ったエリアをB、玉石もモルタルも共に外れてしまい土が露出しているエリアをCと分類し、それぞれを写真で記録しました。

1区画分の修理対象エリア

1区画分の修理対象エリア

また、それぞれの1㎡に分けられたエリアごとに特徴的な玉石5個を任意で抽出し、エリア内に置かれている向きを写真で記録し、意匠の踏襲に役立てました。

③ 流れ底修理

②で分類したA・B・C及び修理対象外の範囲をもとに、上流から順に修理を行いました。修理前の状況を踏襲した仕上がりを基本方針としつつも、造営当初から流量が減っている水が流れ幅全体に行き渡ることを目指しました。各エリアに敷くモルタルの高さは、流れ底で最も古いとされるモルタルを基準としました。

モルタルの高さ確認の様子

モルタルの高さ確認の様子

古いモルタルを取り外している様子

古いモルタルを取り外している様子

修理箇所の玉石およびモルタルを取り外した後に、割れたモルタルからしみ込んだ水によって軟弱になってしまっていた地盤の除去を行いました。造営当初、石敷き仕上げのモルタル厚は均一に設定されていたため、水の流れが集中していたと思われる箇所では削れた様子が著しい場合もありました。今回の修理では、敷かなくてはならないモルタルが7cm以上になる場合は、モルタル施工の前に、水によって削られた部分に新たに土を充填し突き固め、基盤が平坦になるようにしました。

堆積土除去の様子 堆積土除去の様子

基盤を平坦にしている様子

次に、モルタル(砂3:セメント1)を打設し、接着剤を塗布、周囲の玉石の詰まり具合や雰囲気が合うように職人が調整しながら玉石を設置していきました。また、玉石と玉石の間の目地を整え、その部分を伝って流れる水の方向や量が、流れ幅全体にいきわたる流れを実現するよう仕上げを行いました。

基盤に接着剤を塗布している様子

基盤に接着剤を塗布している様子

玉石を設置している様子1 玉石を設置している様子2

玉石を設置している様子

修理の工程がすべて終了したら、次回数十年後に行われるはずの未来の修理のために、正確で意図がわかりやすい記録資料を作成します。

このように文化財に指定された庭園の修理は、工法について十分な検討を重ねられ、現代の職人によって施工が実施されています。そして、現在にも未来にも伝わりやすい記録を取りながら実施されています。

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