桃山温泉月見館 Tsukimikan

昭和初期から続く歴史ある旅館として知られた京都・伏見にある「月見館」は、2025年に既存の空間を生かした歴史と現代が織りなすスモールラグジュアリーホテル、「桃山温泉月見館 Tsukimikan」として生まれ変わりました。今回のリニューアルにあたり、弊社は玄関周辺の前庭や客室に面する各庭などの改修を設計・施工で担当いたしました。

前庭では、国の登録有形文化財である本館のファサードと調和を図りつつ、リニューアルを契機によりグレード感のある佇まいの演出を行いました。玄関脇には、高質な竹垣の一つである木賊垣(とくさがき)を設え、格式のある雰囲気を醸成。既存の植栽はできる限り活かし、ライティングにより夜の景観をより印象的なものとなるよう計画しました。

客室の庭の作庭にあたっては、敷地横の宇治川から大阪まで運行された三十石舟の歴史を着想源としました。客室の縁側やバスルームを「舟からの視点」に見立て、無心で眺めたくなるような、心地よい庭を目指しました。また、昭和初期に建てられた風格ある建築の個性を尊重し、既存樹木の役割を見極めながら作庭に取り組みました。

こちらの「真」の部屋の庭は、スケールアウトしていた既存樹を撤去し、中央に添景として蹲踞を配置。主木としてイロハモミジ、バイカツツジ等の低木を添えました。また、元来あった横長の視覚構成を意識し、空間に広がりを与えられるよう背景に御簾垣を設置しました。

こちらの「空」の部屋の庭は、既存樹のシダレザクラを空間の主役とし、凛々しく深みのある幹肌や、繊細で爽やかな枝垂れの様子をゲストにお楽しみいただけるよう、その他の設えを控えたシンプルな庭としました。微地形により空間に立体感を与え、地際には苔を張り詰め、自然環境の中にある樹木の印象をつくり出しています。また、オーナー所有の石像美術品をシダレザクラの脇に据え、青々とした空間のアクセントとしています。

「妙」の部屋の浴室から眺められる空間では、既存のウメの存在が際立つように植栽を再構成しました。また既存ウメと対を成すように、新たにウメを新植することで“ウメ”の空間としての印象を強めました。

廊下を行き交う人の視線に入りやすい中庭は、広々としたガラスが張り巡らされているため、イロハモミジやドウダンツツジ等の落葉樹で季節感を演出しています。空間を囲う杉板塀とともに京町家の坪庭的な風情を作り出しています。写真奥の主庭に向かう動線は、延段や飛石で整え、見た目に気持ちの良い空間としています。

風情ある建築をそなえた歴史ある場所を、新たに現代的で洗練された空間に生まれ変わらせる桃山温泉月見館のプロジェクトにそぐう庭園空間をご提供いたしました。

所在地 / 京都府京都市伏見区桃山町泰長老160−4
事業主 / Moon合同会社
建築設計 / 竹内誠一郎建築研究所
建築施工 / 熊倉工務店
造園設計・施工 / 植彌加藤造園(主に前庭、客室庭)
規模 /造園改修範囲:約221.6㎡(主に前庭、客室庭)

所在地: 
京都府京都市伏見区
公開状況:
公開(施設利用者対象)
作庭時期:
2024年10月-11月、2025年3月-5月

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