京都嵯峨野山墅(きょうとさがのさんしょ)は2020年に京都市右京区に新築された個人邸です。敷地の約3/4を占める庭園の計画・設計・施工を弊社が担当させていただき、建築計画・設計はLAYAN ARCHITECTS + DESIGNERS、株式会社設計組織アモルフが担当されました。各社の専門性を最大限に活かし、連携を図りながら、プロジェクトに取り組んでいきました。
西に小倉山、嵐山がそびえる風光明媚な当該地周辺は、古都保存法による歴史的風土保存区域に指定され、古くは貴紳の別荘地、社寺境内地等に利用されてきました。
本庭園では、小倉山、嵐山への眺望、敷地内に林立するモミジの古木等の優れた環境を生かし、市街地の喧騒から離れた現代の「山墅(さんしょ)」としていくことを目指しました。また、庭園に末永い親しみや愛着が築けるよう、回遊しながら巡り合える15カ所の「名所(などころ)」を作庭し、それらを「嵯峨野山墅十五景」と位置づけました。
建築との関係性から、庭園空間は主庭、中庭、玄関庭、通路庭の4つで大きく構成しています。
●主庭
敷地中央に位置する主庭は、西の小倉山、嵐山を借景とする池泉回遊式の庭です。
西に築山と三段の滝,中央に東西の建築へと広がる池をつくり,背景の山々とつながる水景を築きました。池と築山の周囲には,枯流れや月見台,展望台等の設えをつくり,水景と調和した様々な情景を楽しめます。
●中庭
中庭は、主庭の水が流れ込んだ海を想像させる枯山水の庭です。建築を介して東西に2つの空間で構成されており、西側は「静」をテーマとし、内海の穏やかな島嶼の景観を表現しました。一方、東側は「動」をテーマとし、モミジとドウダンツツジによる二段生垣により外海の波を表現しました。
●玄関庭
玄関庭は、近隣の景勝地「保津峡」に見立てた庭です。階段や園路で荒々しく蛇行する保津川の流れを、築山や景石、植栽により渓谷の風景を表現しました。玄関へ近づくにつれ、渓流をのぼり静かな山の奥地へと向かうような感覚を与え、滞在する邸宅への期待感を抱かせる空間となるよう作庭しました。
●通路庭
敷地西側の通路庭は、「京の縮景」をテーマにした庭です。南北に伸びる延段を鴨川に見立て、その実際の南北方向のスケールをもとに、石造物や植栽等で表した京都の著名地を庭に取り込みました。特徴的な設えとして、主庭築山の擁壁に、敷地上空から確認できる東山三十六峰の山並みを石積みにより描いています。
このように、各庭は固有のテーマを持ちつつも、「山」、「水」、「紅葉」を共通要素としてデザインに取り込んでいます。